独りよがりにならないように2015/06/02 23:55:16

広島・長崎の原爆投下が日本の降伏、ひいては日本本土での米軍兵士の多数の犠牲を防いだ――。
これまでも言われ続けていたが、アメリカではいまなお、この「原爆神話」を主張する人がいる。

第2次世界大戦終結50年目、つまりわたしがアウシュビッツを訪れたその年、ワシントンDCのスミソニアン博物館で、原爆を広島に投下したB29「エノラ・ゲイ」を広島と長崎の被爆資料とともに展示するという企画に、退役軍人らが反対して企画そのものが中止になったという出来事があった。
あの戦争を生き抜いてきた、当時存命だった退役軍人らにとっては、第2次世界大戦は「よい戦争だった」と信じていた。それは彼らが戦争に赴いた意味づけ理由づけであり、それを否定することも否定されることも含めて許してしまうと、彼らが信じている「物語」が根底から崩れてしまうからだろう。だから、東京大空襲も含めて非戦闘員市民が多く犠牲になったことを正当化するために、彼らは「原爆神話」に固執し続けてきた。それは敗戦国である(わたしは個人的にも終戦という言葉が嫌いで、使いたくない。日本が負けたという事実ははっきりしており、終戦という言葉でごまかすことは歴史への冒とくであると考えるからだ)日本にも言える。同じように自分たちを正当化する発言がこの国の政治家にもみられることに、はっきりおかしいといわなくてはならない。

前置きが長くなってしまったが、本題は歴史が主題ではない。
昨日ニュースになった、寺社仏閣への油まき事件である。

ネットでは逮捕状が出された人物について特定するような内容がいくつもあるが、ことは彼の出自ではなく、どういう信仰を持っていたか、それこそが大事なことである。彼の出自を必要以上にアラ探ししてしまうと本質が見えなくなってしまう。もちろん彼の両親が出た祖国のキリスト教、キリスト教を標ぼうする団体の中に、いかがわしいカルトのようなものがあることは否定できない。そのカルト宗教を問題にすべきであって、彼の出自を必要以上にあげつらうのには同意しかねる。

問題は「霊の戦い」を主張して他の宗教施設や文化財を壊してもいいのだ、それが日本を救うのだという主張である。
聖書にはどこにもそんな考えは書かれていない。たしかに油をそそぐという表現はあるけれども、だからといって油を注ぐという行為が宗教行為として聖書から理屈づけはできるが自分たちの内輪だけでしか通用しない思考行為でしかないのではないだろうか。
戦いというけれど、勝者が誰なのか敗者は何なのか、説明できていない。

イエスは福音書で、商売をしていた人を追い出したと、福音書にある。けれどもそれは多数の人が見ているさなかで行われたことだっただろう。けっして誰も見ていないところで勝手に一人騒いで行ったわけではない。それだけ、周囲からの非難や批判も覚悟の上で行った行為だったと思う。
だが今回の行為は夜中に勝手に入り込んで行った、自分たちこそこの世の人々を救うのだ、という独りよがりの行動だった。そこに彼らは気づいていない。自分たちさえよければそれでいい、という考えだろう。

はじめに書いたように、自分たちが確信しているもの信じているものを否定することも否定されることも含めて許してしまうと、彼らが信じている「物語」が根底から崩れてしまう。それはいつの世にもどんな宗教にも思想にもあった。三浦綾子さんが戦争直後に教科書を墨で塗りつぶしなさいと教えたとき、それまでの軍国主義からまったく違う考え方に変わって苦しんだとおっしゃられた。
キリスト教も、有名な人や牧師先生の考え方に心酔しすぎて、自分で考えることができなくなってしまったり、聖書を読むときもそういうナントカ先生の言葉に影響を受けすぎて都合よくつまみ食いした読み方をしてしまうこともある。
カルト宗教だけではなく、キリスト教もまたカルト化しやすいわながある。カルトから脱出した方がとても苦しむのは、それまでの「物語」が根底から崩れてしまうことへの葛藤があるからだ。
そこに陥らないように、もっとはっきり言えば独りよがりにならないように、常に気をつけていかなくてはならない。
信仰は人を生かすためにある。だからこそ美辞麗句で化粧したような言葉に惑わされないように。

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