帰ってきた「鋼鉄の男」2006/08/28 00:38:33

宇宙の彼方にひろがる、ある白い惑星。水晶を連想させるその星がだんだん大きな恒星にのみ込まれていき、爆発してしまう。飛び散る星の破片、いん石にまじって、ある小さないがくり形の宇宙船。そして………。
このオープニングで、19年ぶりにスクリーンに帰ってきた「鋼鉄の男」。「スーパーマン リターンズ」
きこえてくるメーンタイトルミュージックも、聴き慣れた、ジョン・ウィリアムズ作曲のあの名曲のメロディーだ。

1987年の「スーパーマン4 最強の敵」を最後に、スーパーマンを描いた映画はつくられなくなった。その後バットマンやスパイダーマン、X-MENといったアメリカンコミックスのキャラクターを描いた映画はあったけれど、やっぱり青いスーツ、胸には「S」マーク、赤いケープマントの男がいないのはさびしい。のろわれたとまで言われたほど、スーパーマンを演じた俳優がその後不幸な人生をたどることもあわせて、スーパーマンという明るいキャラクターと映画の現実との交差が、ある意味原作マンガ以上にドラマチックな印象を与えた。

映画に戻ろう。
19年前でつくられなくなったことは前にも書いた通りだが、今回製作されたこの「スーパーマン リターンズ」は、さらにさかのぼって1978年に公開された映画版スーパーマン第一作「スーパーマン」へのオマージュであるとともに、30年近く経ったいまの映像技術と、30年前の映像世界とを実に絶妙に組み合わせて描いている。
「スーパーマン リターンズ」でいくつも、第一作「スーパーマン」で描かれた世界が登場する。たとえばクラーク・ケントが少年時代を送ったカンザス州スモールビル。養父ジョナサンと養母マーサとともに育った牧場がそのまま再現されている。バンダーワーズ宅につくられた、スーパーマンの宿敵。レックス・ルーサーの鉄道模型。「スーパーマン」を思い出してほしい。レックス・ルーサーが2つの核ミサイルを強奪し、うちひとつをカリフォルニア州に撃ち込む。その大災害のさなか、脱線寸前の列車を救おうと、スーパーマンはみずからのからだを折れた列車レールのあいだに敷いて列車を救った。メトロポリスのルーサーの隠れ家を捜索しようと潜入したメトロポリスの警察官は、線路のかべにしくまれたトラップによって地下鉄車両に轢かれてしまう。鉄道模型も、実験で、走っていた鉄道が崩れ落ち、人形が列車模型の下敷きになる。ルーサーの悪巧みがそのまま再現されていると言えないか。悪趣味だなと思うのは鉄道模型の上をB-29の模型が飛んでいたこと。これだけはちょっと………。

まだある。
「スーパーマン」で、恋人、ロイス・レーンを初めて救出したのは、スーパーマンのもうひとつの姿、クラーク・ケントとロイスが勤めている新聞社、デイリー・プラネット社屋ビルだった。ロイスの乗ったヘリコプターがケーブルにからまる。あわや墜落というところでスーパーマン登場!
「スーパーマン リターンズ」ではロイスが乗ったのはセスナ機。墜落寸前のところを救ったのも同じ。ロイスはスモーカーのようだが、ちゃんと「スーパーマン リターンズ」でもたばこに火をつけようとする場面が登場する。
さらにはロイスとスーパーマンの空をかけるフライングデート場面。「スーパーマン」のロマンチックなシーンも魅力的だが、今回は飛び上がったことに気づかず、「いつのまに?」とロイスが驚くほど、自然にスーパーマンがフライングデートに誘う。
映画の最後の場面、スーパーマンが地球を飛び出していく飛行シーンも「スーパーマン」と同じ。故クリストファー・リーブさんは笑顔を見せてくれたけれど今回のブランドン・ラウスさんはその演技をしないだけの違いだ。

映画オープニングのタイトルクレジットがスクリーンからこちらへ飛んでくる映像といい、まるで第一作「スーパーマン」の世界をそのまま再現したかのようだ。

しかし、決定的な違いがある。
30年前には考えられなかった、飛行シーンのスピード感ある表現と映像だ。第一作「スーパーマン」のころはまだ、役者がピアノ線にくくりつけられて「飛ぶ」イメージをするしかなかったが、いまはコンピューターグラフィックスの進歩やデジタルカメラの技術進歩に伴い、スピードある飛行が表現できる。また、スーパーマンが宇宙空間から地球に突入する場面も、空気摩擦がきちんと描かれている。

あれやこれやと書いたけれども、なによりこころ温まるというかホッとしたのは、エンドタイトルロールに、「故クリストファー・リーブ夫妻に捧げる」とあったことだ。第一作「スーパーマン」に出演した俳優でもうこの世の人ではない俳優はほかにも何人もいらっしゃるが、なによりクリストファー・リーブ夫妻なくしては「スーパーマン」以降4つの作品はできなかった。乗馬の落馬で身体が不自由になった以後も精力的に身体障害者の福祉活動などに力を入れ続けた夫妻への哀悼が込められている。2004年に亡くなったクリストファー・リーブ氏はもちろんのこと、奥さんもきっと神さまのみもとでこの「スーパーマン リターンズ」を喜んでいるに違いないと思う。

帰ってきた「鋼鉄の男」に、栄光あれ!