真実と悪に立ち向かっていった鬼平2011/01/19 08:36:05

マンガ版(左)と文庫版(右)の『鬼平犯科帳』
さっそく購入した文庫版原作を読み始めた。ページはそんなに多くなく、読むのは1時間もかからない。

あくまでも劇画は劇画だから、小説の、つまり池波正太郎さんの世界観、長谷川平蔵という実在の人物を中心に同心や与力、敵役の犯罪人無宿人、また平蔵の密偵となるおまさや五郎蔵、彦十、平蔵の家族、江戸の市民たちを生き生きと描いている原作の持ち味を殺すことなく、脚色している。池波さんの原作はいまから40年以上前の「オール讀物」1970年12月号に掲載された。

原作の「鈍牛」と劇画版の「鈍牛」を読み比べる。違いがある。
挙げればきりがないが、たとえば劇画版では同心・酒井からことの子細を聞き、亀吉が働いていた菓子店・柏屋前で南町奉行の同心に柏屋への立ち入りを禁じられ、身分氏名を名乗って同心が驚き案内するくだりは原作にはない。南町奉行に亀吉の処刑を3日間延ばしてほしいと、筆頭与力・佐嶋と平蔵が奉行所へ赴く話は、原作では佐嶋に奉行あて手紙を渡し佐嶋に赴かせている。亀吉が収容されている小伝馬町の屋敷に出向いて亀吉と対面するのだが、同行するのは原作では佐嶋ではなく同心・酒井となっている。また、劇画版では小伝馬町の牢屋に収容されている亀吉を同房の囚人たちの暴行から守るため、平蔵の古い剣術仲間である左馬之助が囚人姿で潜入し、亀吉に暴行しようとした囚人を殴り倒すさまも、原作にはない。放火は重罪であったため、牢屋内で囚人が放火犯に暴行を加えることはあったらしい。
しかし、南町奉行に処刑を延期してもらい、そのあいだに真犯人を見つけ出し、冤罪、同心・田中の功名心で処刑されかかった亀吉は晴れて無実となるというストーリーに基本忠実である。

激しい切り合いがある場面も捨てがたいけれど、ひとたびも白刃を交えることなく、真実と悪に立ち向かっていった鬼平の姿にひかれて、この作品を読んでみたいと思ったのだ。