「ハドル」のはじまり2010/09/08 22:46:52

やっぱり一年で一番熱くなれるのは、9月から翌年2月までのプロフットボールシーズン。次に4月から10月までのメジャーリーグだけれど、プロフットボールはたった1チーム16試合、全32チーム256試合だから、1試合がとてつもなく濃いものになる。

フットボールと聴覚障碍者――――
一度だけ訪れたことのある、ギャローデット大学Gallaudet University。
ワシントンDC郊外にある私立の名門大学だが、全米でも3つしかない、聴覚障碍者だけの大学である。同大学のフットボールチーム・ギャローデット大学バイソンズはキャピタル・アスレティック・カンファレンスというNCAA3部のカンファレンスに属している(わたしが調べたところ、現在は同じNCAA3部のノースイースタン・アスレティック・カンファレンスNorth Eastern Athletic Conferenceに属している)。ほかのスポーツには見られない、フットボールで重要な役割を果たしている、たった15秒間だけの作戦会議、「ハドル」。ハドルを生んだのがこの大学フットボールチーム、ギャローデット大学バイソンズだ。

先日購入した『NFLの(非)常識』(タッチダウン社、後藤完夫著)のなかに出てくるエピソードである。
1892年のこと。この大学のQBであるポール・ハバードPaul Hubbardがプレー開始前に、フィールド上で選手を集め次のプレーを伝達する方法を開発したのだという。これが「ハドル」のはじまりだ。なぜか。
ギャローデット大学は先にも書いたように、当時も今も、聴覚障碍者だけの大学である。当然フットボールの戦術伝達もASL(アメリカ手話)で伝えていた。だが、これが相手チームにも見られることに気づいたハバードは、円陣を組むことで正確な伝達と相手に戦術を見られない工夫をしたのである。
ふと考える。そして驚嘆する。
フットボールをわたしたちと同じ障碍者がプレーしてきたこともさることながら、19世紀のそんな昔にすでにASLが一般に広がっていた(試合で対戦相手に読まれるくらいなら一般の人もASLを理解している人が多かったに違いない)ことに。ひるがえって日本では手話というと、少し前までは聞こえない人だけの言葉であり、言語ではないと思われていたのだ。まして聞こえないチームと聞こえるチームがともに戦うというのは、日本ではちょっと考えられない。危険だとか試合にならないとか、障碍のない人たちが理由にならない理由をつけて拒否するのがほとんどだからだ。

何度も生観戦をしているわたしでも、巨大スタジアムで観客席から聞こえてくる声援やヤジや騒音はたまったものではない。本拠での試合はほとんどがホームチームのファンで埋め尽くされる。後藤さんによれば、ハドルを捨てて、QBが相手チームの守備フォーメーションを読み、より効果的なオフェンスフォーメーションへの変更をする、「オーディブル」ではなく、観衆の声援やヤジや騒音に対抗するためのFSL(フットボール・サイン・ランゲージ)なるものがあるそうだ。FSLねえ。 へええ。驚きである。

話を戻すが、ノースイースタン・アスレティック・カンファレンスというNCAA3部のカンファレンスは、ギャローデット大学を含めて13の大学からなる。けれど聞こえない学生はギャローデット大学だけ。
聞こえない学生と聞こえる学生が同じフィールド上で戦っているのは、平等を旨とするアメリカらしいし、とても好感を抱く。

ギャローデット大学
Gallaudet University
http://www.gallaudetathletics.com/sports/fball/index

ノースイースタン・アスレティック・カンファレンス
North Eastern Athletic Conference
http://www.neacsports.com/landing/index

フットボールシーズンは始まっている。プロNFLはもうすぐだ。