安全と競技のはざまで2009/10/30 21:54:28

2つのミニチュアヘルメット
わたしの好きなスポーツ、アメリカンフットボールともうひとつ、たまにテレビで見るF1、インディーカーなどのモータースポーツ。これらに共通していることがある。ヘルメットを使うスポーツだということだ。そしてどちらもこれまでに何度も安全性を高めるための取り組みや努力を怠らなかった。

フットボールの黎明期のころはラグビーとサッカーが混在したようなルールだったのが、徐々に競技ルールが定められ、ラグビーのような円陣を組むスクラムから、向かい合うスクリメージに変化し、ボールもフォワードパスが認められ、それに伴い、現在のような投げやすい形状に変わってきた。
だが、からだがぶつかり合うためにけが人や死者も出る事態が起こり、セオドア・ルーズベルト大統領の時代には「フットボール禁止令」が出されたこともあった。
ヘルメットが登場したのは1869年。アイビーリーグの名門校であるプリンストン大学の選手の恋人がつくった革製のものが始まりだといわれている。だが、男らしさをアピールしたい人たちからは「軟弱だ」とまで酷評されたともいう。その後、戦場で兵士を守るための防具が開発され、パイロットや陸軍兵士向けのヘルメットの技術がフットボールにも転用されるなど、大きな変化が起きた。

とはいえ危険性が伴うのはいうまでもない。

NFL選手の認知症リスク、米議会で論議 元選手も証言
http://www.cnn.co.jp/sports/CNN200910290031.html

これはCNNの記事だが、ここに出ていないけれども、元ダラス・カウボーイズのQB、トロイ・エイクマンなど名選手の中には、脳しんとうを何度も経験したために選手寿命を絶たれたケースもある。現在でも脳しんとうを起こした選手には一定期間試合出場を止めるよう勧告することもある。だが、からだに故障を抱えていても、ポジションを奪われたくない思いから、コーチや仲間に、故障を訴えることをためらうこともある。それがますます、故障を悪化させて、治るどころか選手引退後の生活まで影響をもたらすこともあるのだ。プロという世界の過酷さを思う。

写真は、ミニチュアサイズであるが、形状は実際に選手が使っているのとまったく同じデザインのヘルメット。左が「レボリューション」と名付けられた新しいヘルメット。3~4年前から現役選手に使用者が増えている。右が「レボリューション」が出る前に使われ、いまも現役選手が使っている「VSR-1」というモデル。
違いにお気づきだろうか。
外見上の違いだけでも、「レボリューション」は脳しんとうを防ぐためにいくつかの改良がなされている。まず、ヘルメットの横の耳にあたる部分の穴を大きくしている。次に、ほおからあごにかけて防御できるように、サイドを広げた。あらゆる角度から選手がぶつかったときの衝撃の強さを研究調査したうえで、ほおやあごの部分を保護することで脳しんとうを防ぐためにこういう構造になった。また、(写真では分かりにくいが)ヘルメットの頂点部分に6つ穴をあけて、試合中の頭から発する熱や汗を逃がしやすいようにしている。
最近はもっと進んで、フェースマスクを取り外しやすいようにしたモデルなど、脳や頭を守るものがつくられている。

いつも思うのは、こういった安全性と、競技としてのパワフルさ、ダイナミックさのバランスをどう保つか。プロであればなおさら、選手の能力も体格も大学のそれとは比べものにならない。
脳しんとうで認知症が増えたという報告が議会で論じられるようになれば、やはり問題であるといわざるを得ない。ちなみにNFLの選手寿命は何年だろうか。統計によれば全ポジションで平均およそ3年だという。いまミネソタ・バイキングスでプレーしているブレット・ファーブのように40歳を超えても現役でいられるなんて、ホンのごくわずかな存在なのだ。

NFL自身も先に書いたように一定期間、選手の試合出場を止めるなどの対策を行っているけれど、選手が引退した後まで身体にさまざまな影響が表れるとするなら、もっと現役時代から対策をとるべきではないだろうか。
ヘルメットを武器代わりにするタックルを禁止したり、パスを投げ終わった後のQBへのタックルを禁止したりと、毎年ルールを改正してはいるが。フィールドやテレビでみる激しい試合が身体に大きな後遺症をもたらしているとするなら、それこそプロスポーツの存在意義にかかわってくる。ましてアメリカを代表するスポーツなのだから。

そんなことを頭の隅に置きながら、激しい試合をいのちがけで戦っている選手たちを思う。