中学時代に学んだ本をもう一度読み返してみよう2007/04/13 22:51:48

このトシになると、学生時代とくに中学から高校にかけて読んだ本を思い出す。そしてもう一度読み返してみようなどという思いにかられることもある。
先日も書いた、O・ヘンリーの「最後の一葉」。

写真は新潮文庫から出ている、「最後の一葉」が収録されている『O・ヘンリ短編集(3)』。
まだ決めていないのだけれど、先日中野からの帰りの地下鉄車内で、口を開く程度に小さな声を出して読んでみた。終えるまでだいたい20分くらいの所要時間だったろうか。
登場人物は、スー、ジョンジーというふたりの若い女性画家、医師、そしてベアマンという老画家。ナレーション部分もあるけれど最低、2人いれば役を分担して演じることができそうだ。

うつ病を経験してあらためて感じたのは、肺炎にかかっているスーが窓際から見えるつたの葉の、最後の一枚が散ると自分も死ぬと、思いこみを抱いているというのはうつ病の心理と重なる。自分はもう生きていても意味がない、この世から消えてなくなってしまうしかない、なくなってしまいたいという強烈な追いつめられたような苦しさは、うつを経験した者には共感を持って受け止められるだろう。そして周りの人たちはそれにどう対応したらいいのか、苦しんでしまう。

だがここに、もう一人の画家がいる。「生涯最高の傑作をいつかは描くのだ」と言いながらキャンパスにはほとんど手付かず。それでいて若い画家のモデルになってわずかな収入を得ている、ベアマンだ。
彼のそれまでの歩みがどうだったのか詳細に触れていないけれど、たぶん相当のことがあっただろうし、年を重ねるにつれて偏屈なじいさんになっていったのかもしれない。O・ヘンリーの生涯も波瀾万丈だ。薬剤師、銀行員、新聞記者と職を転々とし、横領罪で起訴されて逃亡と服役までも経験したという。そういった背景を重ねていくと、ベアマンの歩みも苦難の積み重ねだったのかもしれないと思われる。だが、ベアマンは生涯を終える前に最高の傑作を残していった。そう、壁に描かれた、つたの葉だ。風が吹いても落ちず、揺れることさえない葉。それは豪雨のある晩、肺炎をおして描いたのだ。

ターミナルケア、こころのケアサポートとからめて考えることもできる一方、どんなに厳しくつらいと思う状況下でも希望を失わないで生きようというメッセージとも読める。
昨年演じた『地球交響曲』に続けて、自分のいまと重ねて、読み返したい。

最後に。
O・ヘンリーの人となりと「最後の一葉」成立、評価について書かれた本を紹介したい。意外にも作品の知名度に反してO・ヘンリーの生涯は日本ではあまり知られていない。もし「最後の一葉」に興味を抱かれた人がいらっしゃるなら、ぜひ一読をおすすめしたい。『「最後の一葉」はこうして生まれた ――O・ヘンリーの知られざる生涯』
http://www.kadokawagakugei.com/renewal/book/books/category/detail/001.html